特別免許状前提の教員採用試験2
特別免許状前提の教員採用試験を実施している自治体をいくつか紹介します。
英語、看護、工業あたりは多くあるので、高校主要教科で受験できるところを中心に記載します。最近の試験結果は教育委員会のHPなどから拾ったものです。間違いあるかもしれませんので参考までに。
・京都市
理数工コース(理科、数学、工業)、保体、英語で受験できます。
採用人数は10名以内。
京都市は1次試験が小論文、面接で、筆記は免除です。
採用年度 | 募集枠 | 受験者 | 1次合格者 | 2次合格者 | |
京都市 | 令和3 | 理数工 | 8 | 4(理3 工1) | 2(理1 工1) |
令和2 | 理数工 | 11 | 2(理2) | 2(理1 数1※) | |
平成31 | 理数工 | 8 | 4(理3 数1) | 1(理) |
受験者数は10人程度、1次試験で大半が落ち、そこから2次で半分が合格する感じでしょうか。受験者の経歴が分かりませんが、概ね1教科1名程度の採用数で、狭き門ではあると思います。
京都市の堀川高校などは、探究(昔の総合学習)の授業を昔から独自に実施しており、特別免許状で教員になられた方が主導して授業内容を確立していった記事が見つかります。他県と比較して積極的に採用されている印象です。
・京都府
高校理科、工業、農業、情報、保体、英語で受験できます。
京都市と同じく1次試験から面接があります。
採用年度 | 受験教科 | 受験者 | 合格者 | |
京都府 | 令和3年度 | 理科 | 1 | 0 |
保体 | 7 | 0 | ||
情報 | 1 | 0 |
令和3年度は合格者0だったようです。
・茨城県
高校全教科で受験できます。
採用数は一般受験者とは別枠になっているようです。
1次試験は教職専門のみで教科専門の筆記は免除です。
最近の試験結果は以下の通りです。
採用年度 | 受験教科 | 受験者 | 合格者 | |
茨城県 | 令和3年度 | 公民 | 1 | 1 |
美術 | 1 | 0 | ||
福祉 | 1 | 1 | ||
令和2年度 | 工業 | 2 | 1 | |
水産 | 1 | 0 | ||
福祉 | 1 | 1 | ||
平成31年度 | 看護 | 1 | 1 | |
平成30年度 | 生物 | 1 | 0 | |
平成29年度 | 物理 | 1 | 1 | |
工業 | 1 | 1 | ||
平成28年度 (初募集?) |
物理 | 1 | 0 | |
英語 | 1 | 1 | ||
工業 | 1 | 1 | ||
水産 | 1 | 1 |
そもそもの受験者数が少ないですね。比較的採用率は高いように見えます。
・愛知県
高校数学、理科、工業、情報等で受験可能です。
令和3年度採用では、社会人特別選考として筆記が免除されていたようです。
令和4年度採用では、社会人加点で1次試験に+10点、他は一般受験者と同一の試験内容に変更になっています。
ソースが消えてしまったかもしれませんが、探した際には以下の採用状況でした。
平成31年度採用:受験者12、採用者0
平成30年度採用:受験者9、採用者2
・奈良県
令和4年度採用からは全教科で受験可能です。
1次は一般教養が面接になり、教科専門筆記があります。
採用状況は公表データが一般受験者に混ざっているため不明です。
・千葉県・千葉市(合同採用)
全教科で受験可能です。
1次は教職教養が免除され、教科専門の筆記があります。
こちらも採用状況は分かりませんでした。
全自治体を調べたわけではないので、上記以外にも受験可能な自治体はあると思います。愛知や奈良のように、年度によって受験可能教科や試験内容も変わりますので、希望する地域があればまずは調べてみてください。
企業在籍中の教員採用試験受験
・企業在籍中の教員採用試験受験
教員採用試験は4月頃に要項が発表されて、6~8月頃に受験、9月末~10月頭に結果発表(内定)となります。実際に働き始めるのは翌年4月からになりますので、民間企業在籍中なら結果を待ってから退職等の手続を進めたいところです。企業在籍中に気を付けなければならない点について記載します。
・在籍証明書が必要な場合がある
特別免許状前提の受験の場合、出願時に在籍証明書が必要な場合があります。自治体によっては合格後に提出の場合もあります。
在籍証明書は、名前の通りで、会社に在籍していることや在籍期間を記入したものです。人事や総務で発行してもらえます。在籍証明書はフォーマットが決まっていないので、自分でフォーマットを作成するか、受験要項に例が記載されているので、それを使用します。
会社に発行をお願いする場合、理由を言う必要があるかもしれません。在籍証明書は転職後に転職先から求められる書類であるため、「発行依頼=転職」と受け取られる可能性があります。ネットで調べると、在籍証明書は保育園の申請や住宅ローンの審査で必要な場合があるようです。自分の場合は住宅ローンの審査のためということで発行をお願いしました。ただ、実際調べてみると、住宅ローンの審査で必要な銀行はほぼ無いようです。
また、受験要項に記載の例は、受験科目を書くフォーマットになっていたりするので、教員採用試験用であることが分かってしまいます。要項でフォーマットが用意されている場合でも、自分で作成したフォーマットで送付しても問題ありませんでした。概ね、在籍期間、仕事内容、休職期間等が分かればいいようです。
・試験勉強の時間が取れない
できるだけ採用の可能性を増やすため、多くの自治体を受験したいと考えると思います。教員採用試験自体はどこの自治体でも大体同じ時期に行われるため、受けられても2~3自治体になるかと思います。
試験内容は自治体によって異なるため、1次試験で教職のみの場合もあれば、1次試験が面接のみという場合もあります。仕事をしながらでは勉強時間が取りにくいため、できるだけ同じ内容の試験で受験できる自治体を選ぶといいと思います。特に、高校の教科専門の筆記試験はできて当たり前のようなので、教科専門が試験にある場合は相当勉強しなおさないと難しいかもしれません。
・試験日程は土日
試験は基本土日に行われます。場所によっては前泊の必要がある場合もありますが、会社を頻繁に休む必要はなさそうです。
特別免許状前提の教員採用試験
・教員採用試験
免許状の種類によらず、公立学校の教員になるためには、各自治体で行われている教員採用試験に合格する必要があります。合格すると正規雇用のような状態になり、基本終身雇用です。普通免許状を持っている場合は、落ちた場合でも「講師登録」をして、年数期限のある講師として働くことができます。非正規雇用のイメージです。
昨今、教員不足で教員採用試験の倍率が下がっていると言われていますが、主に小学校(1.〇倍とか)の話で、高校では~10倍くらいではないでしょうか。
試験は1次試験と2次試験の2回が一般的です。
1次試験は主に筆記試験で、教科専門、教職専門(+一般教養)、小論文等です。
2次試験は主に個人面接、小論文、集団面接です。
個人面接では以下の内容を含みます。
模擬授業:授業の冒頭10分くらいを実演する
場面指導:実際の学校の場面を想定した対応を実演
(例:保護者が~と言っている、どう対応するか?)
教員採用試験の内容は、各自治体の過去問がAmazon等で販売されているので、
それで傾向や方式を確認するといいと思います。
・特別免許状前提の教員採用試験
特別免許状前提の教員採用試験で求められる能力ははっきりしていません。
要項等に特に記載はありませんし、社会人経験があると言っても、どのレベルの人物が求められているか分かりません。下記の文科省のリンクに特別免許状の指針が記載されています。
これも踏まえ、以下に特別免許状取得に求められる能力の私見を記載します。
①学歴、実績
②人物、志望動機
③教科の知識
④教職の知識
⑤授業力
⑥指導力
<①学歴、実績>
特別免許状前提の試験の要項は、「民間企業等での経験が5年以上」といったものが多いです。教員は公務員で公共性があるため、細かい条件を要項に明記できないのかもしれませんが、どんな民間企業でも経験が5年以上あれば応募できます。全くハードルが分からない条件になっています。
京都市は過去の採用者の例を示しており、博士号取得者、民間研究者・技術者(例としてJAXAや理化学研究所等)が採用されているようです。これだけ見るとハードルはかなり高く、理数系なら「博士号取得同等レベルの経験」が必要と思われます。
他の自治体では採用者の例が示されている場合を見つけられず、ハードルの高さはよく分かりませんでした。
<②人物、志望動機>
昨今の教員採用試験は人物重視と言われているようです。
民間企業から教員を目指すわけですから、それなりに志望動機はしっかりしていると思います。一般の受験者に比べると、対話的に面接が進んでいく印象なので、自分が教員を目指す理由は理論的に準備しておく必要があります。
集団面接や個人面接の対応は、社会人経験のある方ならそれほど問題ないと思います。自分自身が高校に在籍していた時とは、教育の内容や目指すものが変わっている部分もありますので、文科省の学習指導要領等はチェックし、今の教員に求められていることを理解すべきと思います。それに対し、自分の経験がどう活かせるか話せるようにするといいと思います。
<③教科の知識>
特別免許状は高度な知識所持を前提としていますが、それは主に経歴から判断されているようで、自治体によっては、教科の筆記試験が免除されることがあります。
民間で得た高度な専門知識といっても、教科書のごくわずかの範囲を深掘りしている場合が多いかと思います。高校理科の教員採用試験の場合、「理科」としての募集のため、筆記試験は化学・物理・生物・地学の4教科全てから出題されます(問題はセンターレベルかと思います)。大学受験から時間が経っている中、高得点を取ることは難しいです。しっかり勉強してきた一般受験者は8~9割は当たり前に得点するようなので、社会人で働きながら筆記試験の勉強をして一般受験者に勝ることはかなり困難ではないかと思います。(私の場合7割得点+10点加点でも落ちた自治体がありました)
もちろん、筆記免除の場合でも採用までには十分に教えられるように勉強しておくべきです。
<④教職の知識>
筆記試験では「教職専門」、「教職教養」のような名前の試験になっています。「教職教養」は教職+一般教養の試験です。教職の試験は、教育史、教育法規、教育原理といった内容と、文科省から発行された学習指導要領等の各種指針に関するもの、各地方自治体独自の教育目標や指針から出題されます。
教職の試験も免除となる場合があります。教職は全く勉強したことがない方がほとんどだと思いますが、基本暗記で、ネット上に1問1答形式の問題集があったりしますので、コツコツやっていけばそれほど難しくはありません。まずはどんな問題が出されるのかの全体感をつかむことが大事かと思います。
<⑤授業力>
2次試験では模擬授業を課される場合があります。模擬授業は、試験日当日に渡された教科書〇〇ページの内容で授業する場合や、事前に範囲を渡されて当日までに内容を練っていく場合があります。通常の授業は50分程度ですが、試験は5~10分であり授業の最初の導入を行う場合が多いようです。
導入の例:その日の授業内容の概要を日常生活と結びつけて話す等
模擬授業に関しては色々な試験対策サイトで記載されています。特別免許状前提の場合、やはり経験を活かした導入をすることや、ICTを意識した授業が求められているのかなと思います。ただ、教育実習経験がありませんし、チョークや黒板を使うのも初めて、他の教員志望者との練習機会もない、という方がほとんどだと思いますので、一般受験者と比較するとかなりレベルは低くなるのではないかと思います。
前述の文科省の指針を見ても、特別免許状前提の場合、「指導技術等について知識経験等を有していないことが指摘されるが、趣旨としては普通免許状所持者とは異なる知識経験を評価する」と記載があります。この指針からすると、授業力がないのはしょうがない、と見られるのかもしれません。ただ、実際には1年目から授業をするわけですから、授業力は求められるのかなと思います。
ここも求められている能力がはっきりしない点の1つです。
<⑥指導力>
面接の中で場面指導を行う場合があります。例えば、遅刻してきた生徒に対しどのように指導するかや、進路指導のHRで生徒に何を話すか等を聞かれます。基本的に答えがないですし、教員採用試験はその場のアドリブで実施する必要があるので、ある程度事前に場面を想定した準備が必要です。
教員として言ってはいけないこと、やってはいけないことが(体罰等)あるので、試験対策サイト等で確認することをおすすめします。
次回は「企業在籍中の教員採用試験受験」についてです。
特別免許状について
・特別免許状について
特別免許状は、大学で普通免許状を取得していない人でも「教科に関する社会人経験」がある人に対し授与されるものです。
・特別免許状の授与件数
文科省のサイトにデータが記載されています。
↓ ~平成27年度までのデータ
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoin/katsuyou/1385306.htm
↓ ~平成30年度までのデータ
https://www.mext.go.jp/content/20210514-mxt_kyoikujinzai02-000014888_4.pdf
制度自体は昔からありますが、授与件数(私立含む)は
~平成14年 : 年間10件以下程度
~平成26年 : 年間50~100件程度
平成27年 : 215件 (内、英語97、看護35、理科12、工業11、数学11件…他)
平成28年 : 186件
平成29年 : 169件
平成30年 : 208件
年間に採用される新規教員は公立だけでも約35000人なので、特別免許状で教員になっている人は1%未満となります。ほとんどは英語や看護で授与されています。
平成27年に増えたのは、平成26年に特別免許状に関する指針が出されたためのようです。令和3年にも新たな指針が出されたため、昨今の教員不足の問題から、特別免許状により教員になる人は増えるかもしれません。
↓ 令和3年に出された指針リンク
・特別免許状の取得方法
基本的に以下の手順で授与されるようです。
①採用者(学校)が教育委員会へ申請(推薦)
②教育委員会による「教育職員検定」 → 合格により授与
<①採用者(学校)が教育委員会へ申請(推薦)について>
公立の場合、地方自治体で毎年行われている教員採用試験を受験し、合格することで推薦がもらえるようです。一部の地方自治体では、普通免許状を所持していなくても、特別免許状前提の教員採用試験を行っています。試験内容は、一般の受験者と全く同じ場合もありますが、一部の試験が免除される場合があります。
特別免許状前提の試験を行っている自治体は数あるいは教科が限られます。例えば、高校の場合、茨城県(全教科)、京都府(英理情工農保)、京都市(英理数工保)、愛知県(理数工情看福祉水産)、埼玉県(看護、自立)のように、自治体によって異なります。まずは、志望したい自治体で、4月頃に掲載される要項で、募集があるかどうか確認することになります。
下記の文科省のリンク先に、各自治体の特別免許状の活用状況が掲載されています。英語や工業といった科目は多く募集がありますが、社会や理科等の募集がある自治体はかなり限定されます。また、年によって募集の有無は変わるようですので各自治体のHPでご確認ください。
私立の場合はよくわかりません。HPなどで採用情報を見ても、普通免許状所持が必須となっています。私立の方が、特別免許状の授与数は多いという記事もみかけました。学校とのコネクションがあるとか、学校側からお願いされてとかで、授与されるのかもしれません。意外と問い合わせてみれば対応頂けるのかもしれません。
(追記)
私立でも特別免許状前提の採用をされている例がありました。
開智学園では修士号or博士号の所持者を対象として、教員免許を持っていない人も募集されているようです。
<②教育委員会による「教育職員検定」について>
公立で教員採用試験を通過後、教育委員会へ特別免許状の申請をします(免許状は普通・特別問わず、教育委員会が授与します)。この時に、「教育職員検定」を受ける必要があるようです。教員採用試験を通過しているため、この「教育職員検定」が形だけのものなのか、筆記や面接があるのかは分かりません。
判明しましたら、後日追記したいと思います。
次回は「特別免許状前提の教員採用試験」についてです。
社会人が教員を目指す方法
・社会人から教員になるには?
教員になるには教員免許が必要になります。教員免許には種類があり、教員免許を持っていない社会人でも、教員になる方法がいくつかあります。その一つが特別免許状です。
・教員免許の種類
①普通免許状(1種、2種、専修)
ほとんどの教員はこの免許を取得して先生になります。校種・教科別に取得します。2種は短大、1種は大学、専修は大学院卒で取得できます。
②臨時免許状
臨時免許状は普通免許状を持っていない人を採用する場合に授与されるものです。3年間の有効期限があります。
③特別免許状
臨時免許状と同じく、普通免許状を持っていない人を採用する場合に授与されるものです。有効期限はなく、普通免許状と同じ効力を持ちますが、授与された都道府県のみで有効という縛りがあります。
・社会人が一から普通免許状を取得する方法は?
普通免許状と取得するには、必要な単位を取得して教育委員会へ申請する必要があります。必要な単位数は法律で決まっています。在学中に教員免許を取得していなかった場合でも、一部の単位(数学、物理学等)はカウントできる場合があります。
普通免許取得には、教職科目(教育原理、道徳教育等々)の単位が必須なので、多くの場合は通信制大学等に入学して、教職科目の単位を取得する必要があります。
私は明星大学通信教育部に在籍して中高・理科の普通免許状を取得しようとしました。最低でも取得には2年必要で、教職科目以外にも、教育実習(中学なら3週間、高校なら2週間)が必要ですし、働きながらだとハードルは高いです。
また、理科の教員になるには、実験(化学・物理・生物・地学)の授業を受けて単位を取得する必要があります。通信制でもこれはスクーリング(大学に行って授業を受ける)が必要です。在学中にも実験をしていましたが、残念ながら私の出身大学では、教員免許取得用の単位として認められておらず、4実験科目すべてを受ける必要がありました。これは大学によりますし、年度によっても変わるようなので、在籍当時のカリキュラムで単位が認められるかどうかは、出身大学の教務課に問い合わせが必要です。
次回は特別免許状についてです。